要点
ヘビが食べたものを吐き戻す。一度きりでなく、繰り返している。
文献では、吐き戻しは単独の病名ではなく、複数の病気の症状の一つとして報告されています。 当サイトで本文または抄録を確認できたのは次のとおりです。
- 胃や腸にいる寄生性の原虫、クリプトスポリジウムの感染。食欲不振や体重減少と並んで吐き戻しが挙げられています[1][2]
- 輸入された野生捕獲のエメラルドツリーボアで起きた、吐き戻しを繰り返す集団発生。クラミドフィラという細菌が関わっていたとされています[3]
- パイソンの神経症状を伴うウイルス病(封入体病)。頭の震えなどと並んで吐き戻しが挙げられています[4]
- 胃の腫瘍。ニシキヘビ 1 例の報告です[5]
**どれに当たるかは、当サイトでは判断できません。**繰り返し吐き戻しているときは、早めの受診が勧められます。
どんな症状か
報告されている吐き戻しの様子
- クリプトスポリジウム(C. serpentis)に自然感染していたヘビ 21 匹の追跡で、症状は、吐き戻し、食欲不振、進行性の体重減少だったと報告されています[2]
- 中国の調査は、消化器の症状があったヘビ 147 匹の症状を、「食後の吐き戻し」「下痢」「胃のふくらみ」の 3 つに分けて集計しています[1]。内訳は、吐き戻し 59 匹、下痢 56 匹、胃のふくらみ 32 匹です[1]
- エメラルドツリーボアの集団発生では、吐き戻しは餌を食べた 3〜4 日後に起きたと書かれています[3]
- 胃の腫瘍が見つかったニシキヘビの 1 例は、1 か月間の吐き戻しと食欲不振があり、体腔(お腹の中)の一部がふくらんでいたと報告されています[5]
これらは別々の集団・個体の報告で、どの病気が多いかを比べることはできません。
考えられる原因
「考えられる原因」の節に挙げるのは、文献で吐き戻しが症状として挙げられた病気の例です。 原因を網羅したものではありません。
クリプトスポリジウム(胃や腸の感染)
中国の 26 の省で集めた飼育下のヘビの糞便を調べた報告です(コーンスネーク、ブラックラットスネーク、パインスネーク、ガーターヘビ、キングスネーク、ホッグノーズスネークの 6 種)[1]。
- 消化器の症状があった 147 匹のうち 103 匹(70.0%)でクリプトスポリジウムが検出されました[1]
- 症状の無い 603 匹では、検出されたのは約 20%(122 匹)でした[1]
- 「食後の吐き戻し」があった 59 匹では、48 匹(81.4%)で検出されました。種別では C. serpentis が 39 匹、C. varanii が 9 匹です[1]
- 同じ 147 匹で、C. serpentis と吐き戻しとの関連(オッズ比 6.63)、C. varanii と下痢との関連(オッズ比 4.69)が示されました[1]
- 胃のふくらみのあった 32 匹では、クリプトスポリジウムが検出されたのは 11 匹(34.4%)でした[1]
著者らは、C. serpentis と C. varanii がそれぞれ吐き戻しと下痢の「原因の可能性が高い」と述べています[1]。 ただしこれは糞便の遺伝子検査と症状の統計的な関連で、個々のヘビの吐き戻しの原因を確かめたものではありません。 吐き戻しがあった 59 匹のうち 11 匹では検出されていません[1]。
ブラジルの研究所で C. serpentis に自然感染していた 21 匹の報告は、この感染症を「慢性の臨床型または無症状の感染で、肥厚性胃炎、吐き戻し、進行性の体重減少、死亡、糞便への原虫の間欠的または持続的な排出を特徴とする」と説明しています[2]。 21 匹すべてが原虫を間欠的に糞便に出しており、糞便検査の陽性は 184 検体中 157 検体(85.32%)でした[2]。
クラミドフィラが関わった集団発生
米国フロリダ州の飼育施設で、野生捕獲のエメラルドツリーボア 105 匹を、もとからいた 15 匹の群に 4 か月かけて加えたところ、その後の 23 か月に、計 120 匹のうち 81 匹(67%)が吐き戻しを繰り返し、そのうち 61 匹(75%)が死亡したと報告されています[3]。 消化管の組織には、肉芽腫をともなう炎症があり、クラミジアの抗原が染色で確認され、電子顕微鏡でクラミドフィラに似た生物が見られました[3]。
これは輸入直後の野生捕獲個体の 1 施設での集団発生で、一般の飼育下のヘビの頻度や致死率を示すものではありません。
神経症状を伴うウイルス病(封入体病)
パイソンに自然感染したレプタレナウイルスは、吐き戻し、「スターゲイジング」と呼ばれる宙を見つめるような姿勢、頭の震え、方向感覚の喪失、コルク抜きのようにねじれる動き(コークスクリューイング)といった症状として現れると述べられています[4]。原文は、吐き戻しを中枢神経系の症状の例に含めています[4]。
同じ報告は、近年の飼育下のボアの感染は目立った症状の無いことが多いとも述べています[4]。 くわしくは、当サイトの別記事「ボア・パイソンが痙攣する・体をひねる(封入体病)」にまとめています。
胃の腫瘍
5 歳の飼育下のダイヤモンドパイソン 1 例で、1 か月間の吐き戻しと食欲不振、体腔のふくらみがあり、胃壁の大部分に及び胃の内腔をふさぐ腫瘤が確認されて、病理検査で胃の腺がん(胃腺癌)と診断されたと報告されています[5]。 この報告は、胃の内視鏡で採った組織の検査では異常が出なかったことを挙げ、胃の腫瘤の構造によっては組織検査が陰性になりうると述べています[5]。
1 例の報告で、ヘビの吐き戻しに腫瘍がどのくらい関わるかは分かりません。
家庭でできること
診断や治療は家庭でできることではなく、必ず獣医師の判断が要ります。
そのうえで、受診のときに伝えられるよう、次のことを控えておくと役立ちます。
- 吐き戻した日時と、そのヘビに最後に餌を与えた日時
- 吐き戻しの回数と、いつごろから続いているか
- 食欲、体重、便の様子(下痢の有無など)の変化
- お腹のふくらみの有無
- 頭の震え、体をひねる動きなど、ふだんと違う動き
- 最近新しく迎えた個体がいるか、同じ場所で飼っているほかの個体にも似た様子があるか
- 吐き戻したものや、お腹まわりの写真・動画
吐き戻したものや糞便を病院に持っていくかどうかは、受診前に電話で確かめてください。
受診の目安
今日中に受診を検討してください
- 吐き戻しが繰り返し続いている(繰り返す吐き戻しを示したエメラルドツリーボアの集団発生では、吐き戻しを繰り返した 81 匹のうち 61 匹(75%)が死亡したと報告されています[3]。輸入直後の野生捕獲個体の 1 施設の数字で、一般の飼育下の個体に当てはまるとは限りません)
- 吐き戻しに加えて、頭の震え、体をひねる、方向感覚を失ったような様子がある(パイソンの封入体病で報告されている症状です[4])
- 吐き戻しに加えて、お腹が目に見えてふくらんでいる(胃の腫瘍の 1 例でお腹のふくらみが報告されています[5]。また、中国の調査では、胃のふくらみのあとに突然死した例を飼い主が述べたと書かれています[1])
- 吐き戻しがあり、ぐったりして反応が鈍い
数日のうちに受診を検討してください
- 吐き戻しが 1 回きりでも、食欲不振や体重の減りが続いている(C. serpentis の感染で、吐き戻し・食欲不振・進行性の体重減少が報告されています[2])
- 同じ場所で飼っているほかの個体にも、吐き戻しや食欲不振がある
吐き戻しが 1 回だけで、ほかに変わった様子がない場合の扱いを述べた文献は、当サイトでは確認できていません。 迷うときは、獣医師に電話で相談してください。
あわせて読む
- ボア・パイソンが痙攣する・体をひねる(封入体病):頭の震え、体をひねる動き、吐き戻しを繰り返す