要点
ごはんを食べない、いつもより動かない、ぐったりしている。
救急で診られたフトアゴヒゲトカゲ 242 頭の診療記録を調べた報告では、受診理由として多かったのは元気消失(109 頭、45%)と食欲不振(97 頭、40%)でした[1]。オーストラリアの動物病院 3 施設の調査でも、元気消失が最も多く報告された受診理由でした[2]。
「食べない」「元気がない」という症状だけでは、原因は分かりません。救急受診の報告は、こうした症状を「はっきりしない症状(vague clinical signs)」と表現しています[1]。文献には、アデノウイルス・コクシジウム・微胞子虫の混合感染[3]、マイコプラズマの集団発生[4]が、食欲不振を伴う例として報告されています。
どんな症状か
受診した個体の記録
救急で受診したフトアゴヒゲトカゲ 242 頭の診療記録を後ろ向きに調べた報告では、次のことが示されています[1]。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 多かった受診理由 | 元気消失 109/242 頭(45%)、食欲不振 97/242 頭(40%) |
| メス 100 頭での所見 | オスより腹部(体腔)の膨らみで受診することが多く(12/100 頭、12%)、生殖器の病気と診断された個体が 11/100 頭(11%) |
| 退院まで生存した個体 | 140/242 頭(57.9%)。オスとメスで同程度(抄録の記載のまま。抄録のオスの頭数と割合は計算が合わないため、数値は省きます) |
| 退院まで生存しなかったことが多かった受診時の所見 | 元気消失(オッズ比 2.85、95% 信頼区間 1.68〜4.83)、食欲不振(オッズ比 2.36、1.39〜4.00)、ボディコンディション不良(poor body condition、オッズ比 3.94、1.36〜11.45) |
| 退院まで生存しなかったことが多かった診断 | 体腔の液体貯留(celomic effusion、オッズ比 6.67、1.85〜24.07)、原因不明の食欲不振(オッズ比 2.79、1.41〜5.52)、原因不明の元気消失(オッズ比 2.35、1.19〜4.63) |
著者らは、診断に至らなかった場合、広範な検査が必要だった場合、手術が必要だった場合に、生存する割合が低かったと結論しています[1]。この報告は抄録による要約です。救急で診られた個体の記録であり、関連を示すもので、食欲不振そのものが結果の原因だと示すものではありません。
オーストラリアの動物病院 3 施設で 724 頭・延べ 1000 回の受診を調べた報告では、70 の受診理由と 88 の病気が見つかり、元気消失が最も多く報告された受診理由でした(181 件)。影響を受けていた器官系は、消化管と皮膚が同率で最多(いずれも 18.25%)、次いで筋骨格系(15.17%)でした。単一の病気では、内部寄生虫が最も多く(103 件)、次いで代謝性骨疾患(65 件)、皮膚の傷(59 件)、歯周病(48 件)でした[2]。この報告も抄録による要約で、これらの診断が食欲不振とどう対応していたかは抄録に示されていません。
症例報告・集団発生に記された症状
- 同じケージの 3 匹の症例報告:生後 2 か月の幼体が食欲不振と削痩(cachexia)で受診し、数日後に死亡しました。同じケージの別の 1 匹はその 2 週間前に突然死していました。さらにもう 1 匹が食欲不振と体腔の膨らみで安楽死されました[3]
- 米国の研究施設の集団発生:5 か月齢の 33 匹の群れで、脱水・元気消失・食欲低下(inappetence)・体重減少・首を伸ばす姿勢・ときどき口を開けて呼吸する様子・突然死がみられ、6 匹が死亡しました。呼吸の症状があったのは 6 匹のうち 1 匹と述べられています。症状が 24 時間を超えたのも 1 匹で、残り 5 匹は症状が出てから 24 時間以内に死亡したと述べられています[4]
考えられる原因
文献で報告されているものには、次のようなものがあります。どれも「報告されている」ものであり、目の前の個体の原因を示すものではありません。
- ウイルス・原虫・微胞子虫の感染:上の同じケージの症例報告では、食欲不振で受診した幼体の糞便から多数のコクシジウム(Isospora amphiboluri)と少数の蟯虫の卵が見つかりました。安楽死された 1 匹の組織検査では、腸のコクシジウム症、アデノウイルス感染に合う核内封入体、急性の肝臓の壊死(微胞子虫に合う微生物を伴う)、腎臓の痛風が見られ、PCR でアデノウイルスと微胞子虫(Encephalitozoon cuniculi に似たもの)が確認されたと報告されています。著者らは、衛生不良やストレスが除外できる場合に、日和見病原体が多数見つかる背景として、全身性の(ウイルス)感染による一時的な免疫抑制が考えられると述べています[3]。微胞子虫症はフトアゴヒゲトカゲが痩せる・元気がない(微胞子虫症)にまとめています
- 細菌(マイコプラズマ)の感染:米国の研究施設の集団発生では、解剖された 6 匹のうち 5 匹が肺炎と診断され、Mycoplasma pogonae が原因と報告されています。2 匹には、ウイルスによる封入体も組織で見つかりました。著者らは、ウイルスの関与は除外できない、マイコプラズマが病原体として単独で働くかは今後の研究が必要だとしています。一方で著者らは、肺炎のあった個体の下気道からこの菌が検出されたことから、病原性があると考えています[4]
- 内部寄生虫:オーストラリアの調査では、内部寄生虫が単一の病気として最も多く記録されましたが、食欲不振との対応は抄録に示されていません[2]。上の 2 つの報告でも、コクシジウムなどの寄生虫が他の病原体とともに見つかった個体が報告されています[3][4]
- 原因が特定されなかった例:救急受診の報告には、診断名が「原因不明の食欲不振」「原因不明の元気消失」だった個体が含まれています[1]
診療記録の調査で記録されたが、食欲不振との対応は示されていないもの
次の2つは、診療記録の調査で記録された病気です。抄録では、どちらも食欲不振の原因として報告されていません(食欲不振との対応は示されていません)。
- メスの生殖器の病気:救急受診の報告で、メス 100 頭のうち 11 頭が生殖器の病気と診断され、腹部の膨らみで受診するメスがオスより多かったとされています[1]。卵が出てこない状態についてはヘビ・トカゲが卵を産めない、いきんでも出てこない(卵詰まり・卵塞、ディストシア)にまとめています
- 代謝性骨疾患:オーストラリアの調査で、単一の病気として2番目に多く記録されていました(65 件)[2]。フトアゴヒゲトカゲ・ヒョウモントカゲモドキが元気がない・骨や関節に異常が出る(代謝性骨疾患)にまとめています
報告の限界
- 救急受診の報告[1]とオーストラリアの調査[2]は診療記録で、どちらも抄録による要約です。食欲不振と個々の診断がどう対応していたかは、抄録では分かりません
- 同じケージの症例報告は 3 匹の報告で、詳しい組織検査があったのは 1 匹です。これも抄録による要約です[3]
- 米国の集団発生は 1 つの研究施設の群れの 6 匹の報告です。ウイルスの関与を除外できないと著者らが述べています[4]
家庭でできること
診断や治療は家庭でできることではなく、必ず獣医師の判断が要ります。食べない原因にはウイルス・原虫・細菌の感染など複数が報告されており、自己判断で薬やサプリメントを与えることは勧められません。
- 食べなくなった時期、食べた量、体重、便や尿酸の状態を、いつからかが分かるように記録しておく
- 飼育環境(温度・紫外線・餌の内容・飼育密度・同じケージで飼っている個体の様子)を、受診のときに伝えられるようにメモしておく
これらは一般的な記録で、すでに食べなくなっている個体を治すものではありません。
受診の目安
今日中に受診を検討してください
- ぐったりして動かない、反応が弱い
- 口を開けて呼吸している、首を伸ばしている
- お腹(体腔)がはっきり膨らんでいる
- 幼体で、食べない状態に加えて元気がない
数日のうちに受診を検討してください
- 食べない状態が数日以上続いている
- 体重が少しずつ減ってきた、痩せてきた
- いつもより動かない、元気がない状態が続いている
- 同じケージや同じ施設で飼っている個体にも、同じような様子が見られる
食欲の低下や元気消失は、感染症を伴う例が報告されています[3][4]。いつから、どのような様子が続いているかを獣医師に伝えられるようにして、早めに相談してください。
あわせて読む
食べないことのほかに気になる様子がある場合は、次のページも参考にしてください。
- フトアゴヒゲトカゲが痩せる・元気がない(微胞子虫症):体重が減る、食欲が落ちる、元気がなくなる状態が長く続く
- フトアゴヒゲトカゲの体にしこりができる、食欲や元気が落ちる(腫瘍):体にしこりができる、食欲や元気が落ちる
- フトアゴヒゲトカゲ・ヒョウモントカゲモドキが元気がない・骨や関節に異常が出る(代謝性骨疾患):元気がない、骨や関節の異常
- ヘビ・トカゲが卵を産めない、いきんでも出てこない(卵詰まり・卵塞、ディストシア):いきんでも卵が出ない、お腹が膨らんでいる
- ヒョウモントカゲモドキが食べない・拒食する:同じトカゲ類でも、種ごとに報告されている原因をまとめています