要点
ごはんを食べない、餌への反応が落ちた、体重が減ってきた。
英国の動物病院 3 施設の診療記録を調べた報告では、食欲の低下・体重減少・元気消失といった非特異的な症状が、最も多く報告された問題として挙げられています[1]。
「食べない」という症状だけでは、原因は分かりません。文献には、寄生虫、栄養や飼育環境の問題、消化管や骨盤腔の閉塞、腫瘍など、複数の原因が報告されています[2][3][4]。タイの繁殖施設の調査をした論文も、削痩はクリプトスポリジウム症に限らない多因子性のものだと述べています[2]。
体重が保たれている姿
体重が減ってきた姿
どんな症状か
受診した個体の記録
英国の動物病院 3 施設で 2019〜2023 年に受診したヒョウモントカゲモドキ 214 頭の診療記録を後ろ向きに調べた報告では、次のことが示されています[1]。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 最も多く報告された問題 | 食欲の低下・体重減少・元気消失などの非特異的な症状 |
| 診断がついた個体 | 184 頭 |
| 最も多く影響を受けていた部位(器官系) | 皮膚 37.90%、消化器 36.00%、眼 22.00% |
| 多かった診断 | 脱皮不全 29.96%、内部寄生虫(endoparasitic burden)10.75%、ビタミン A 欠乏の疑い(presumptive)9.88% |
この報告は抄録による要約です。抄録は上の割合の分母を明記しておらず、食欲の低下と個々の診断がどう対応していたかも示していません。著者らは、サンプル数が少なく、記録の情報が限られていたため、特定の病気との関連を見つけきれなかった可能性があると述べています[1]。
「痩せ」と食欲不振をまとめた呼び方
タイの繁殖施設の調査をした論文は、飼育者・繁殖者・獣医師がよく出会う問題として「ウェイスティング症候群(going light)」を挙げ、先行文献をもとに、食欲不振・慢性の体重減少・著しい痩せ(特に尾)・脱水・下痢・腹部の膨らみ・死亡などで特徴づけられると説明しています[2]。この論文は、原因や病態はよく分かっていないとも述べています[2]。
症例報告に記された症状
- 成体 1 匹の症例報告:元気消失・食欲低下(hyporexia)・体重減少・排泄物の減少があり、体腔の後ろ側(尾側)に触れるしこりがあった[3]
- レモンフロスト系統の成体 4 匹の症例集積:4 匹とも食欲低下・間欠的な元気消失・体重減少・顎の下のしこり・口の中の斑状の病変があり、メス 2 匹には体腔の左右非対称な膨らみもあった[4]
考えられる原因
文献で報告されている原因には、次のようなものがあります。どれも「報告されている」ものであり、目の前の個体の原因を示すものではありません。
- 寄生虫・原虫:英国の診療記録では、受診した個体の診断として内部寄生虫が 2 番目に多く(10.75%)挙がっています。食欲低下との対応は抄録に示されていません[1]。タイの繁殖施設の調査では、クリプトスポリジウム(原虫)が検出された個体は 51.43%(35 匹中)、削痩が見られた個体は 20% で、感染と削痩には関連が報告されています(オッズ比 11.15、95% 信頼区間 1.78〜69.98)。ただし著者らは、この調査から因果関係までは示せないとしています[2]。詳しくはヒョウモントカゲモドキが痩せる・尻尾が細くなる(クリプトスポリジウム症)にまとめています
- 栄養や飼育環境:タイの論文は、削痩(食欲不振を含む症候群)の要因として、カルシウム・ビタミン D・脂溶性ビタミンが足りない食事が代謝性骨疾患や成長不良、全身状態の低下につながりうること、温度・湿度・紫外線・過密・衛生などの飼育上の問題が代謝上のストレスや病気へのなりやすさを高めることを挙げています[2]。英国の診療記録では、ビタミン A 欠乏の疑いが 9.88% の診断として挙がり、飼育環境と個体の属性に関連する要因が複数の病気で見つかったと報告されています(食欲低下との対応は同じく示されていません)[1]
- その他の感染:同じ論文は、腸内の寄生虫(鞭毛虫など)の混合感染や、真菌・細菌の感染が、食欲不振・体重減少を起こしうる原因として挙げています[2]
- 消化管・骨盤腔の閉塞:タイの論文は消化管の閉塞も原因に挙げています[2]。1 匹の症例報告では、食欲低下・体重減少・排泄物の減少のあった成体で、CT により骨盤腔の閉塞が疑われ、処置のあとに、コレステロールと尿酸塩を主体とする栓が排出されたと報告されています[3]
- 腫瘍:タイの論文は、腫瘍や全身性の病気も原因に挙げています[2]。レモンフロスト系統の 4 匹の報告では、食欲低下や体重減少のあった個体が悪性の虹色素胞腫(iridophoroma)と診断され、この系統は腫瘍抑制遺伝子の変異に関連した素因があると論文は述べています[4]
報告の限界
- タイの調査は 35 匹の 1 つの繁殖施設の調査で、糞便は飼育ケージ単位でまとめて検査されています。陽性のケージにいた個体を曝露ありとして扱った数字を含みます。著者らも、個体ごとの採便が十分できなかったこと、個体数が少ないことを限界として挙げています[2]
- 症例報告(1 匹、4 匹)は、その個体に起きたことの記録です。同じ症状の個体が同じ原因とは限りません[3][4]
家庭でできること
診断や治療は家庭でできることではなく、必ず獣医師の判断が要ります。食べない原因には寄生虫から腫瘍まで複数が報告されており、自己判断で薬やサプリメントを与えることは勧められません。
- 体重と尾の太さを定期的に記録し、いつから変わったかを分かるようにしておく
- 食べなくなった時期、便や尿酸の状態、飼育環境(温度・湿度・紫外線・飼育密度・床材・掃除の頻度)を、受診のときに伝えられるようにメモしておく
これらは一般的な健康管理や記録であり、すでに食べなくなっている個体を治すものではありません。
受診の目安
今日中に受診を検討してください
- ぐったりして動かない、反応が弱い
- お腹がはっきり膨らんでいる、またはしこりのようなものに触れる
- 食べない状態に加えて、便や尿酸が出ていない様子が続いている
- 短期間でめだって痩せた、尾が急に細くなった
数日のうちに受診を検討してください
- 食べない状態が数日以上続いている
- 体重が少しずつ減ってきた、尾が普段より細くなってきた
- 下痢や軟便が続いている
- 顎の下の腫れや、口の中に白っぽいもの・斑状のものがある
- 複数飼育していて、1 匹に上記のような様子が見られる
食欲の低下は、寄生虫、飼育環境、閉塞、腫瘍など、複数の原因で報告されています[2][3][4]。いつから、どのような様子が続いているかを獣医師に伝えられるようにして、早めに相談してください。
あわせて読む
食べないことのほかに気になる様子がある場合は、次のページも参考にしてください。
- ヒョウモントカゲモドキが痩せる・尻尾が細くなる(クリプトスポリジウム症):よく食べているのに痩せる、尾が細くなる、下痢が続く
- フトアゴヒゲトカゲ・ヒョウモントカゲモドキが元気がない・骨や関節に異常が出る(代謝性骨疾患):元気がない、骨や関節の異常
- トカゲ・ヤモリの口の中が腫れる、炎症がある(口内炎・マウスロット):口の中の腫れや炎症
- ヘビ・トカゲが卵を産めない、いきんでも出てこない(卵詰まり・卵塞、ディストシア):いきんでも卵が出ない、お腹が膨らんでいる
- トカゲ・ヤモリの指先や目の周りの皮が剥がれない(脱皮不全):皮が残る