要点
冬眠から覚めた後のリクガメが、口から粘液を出している、鼻水が出ている。
イタリアの繁殖施設で起きたテストゥディッド・ヘルペスウイルス3型(TeHV3)の集団発生の報告では、 症状が出て確認された15頭のうち9頭(60%)が、発症から10日以内に、冬眠明け直後に死亡したと報告されています[1]。 この施設の陸ガメ類270頭の大半はヘルマンリクガメで、1つの施設の1回の集団発生の報告です。 別の集計では、ヨーロッパの検査機関に提出されたリクガメ科の検体で、ヘルペスウイルスは春にもっとも多く検出されたと 報告されています[2]。
冬眠そのものについては、ヨーロッパヌマガメ(リクガメではありません)を対象にした論文が、 冬眠中の死亡は珍しくないと他の文献を引いて述べ、冬眠中の体重は平均5.32%減ったと報告しています[3]。
**この記事が扱えない範囲があります。**冬眠中に動かない・目が開かないといった症状を直接扱った文献は、 今回確認した範囲では採用できませんでした。また、冬眠をさせるかどうか、どう管理するかを示す記事でもありません。
どんな症状か
イタリアの繁殖施設の集団発生を調べた報告では、次のことが報告されています[1]。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 対象 | 2013年4月に発生。施設のカメ類314頭(ヘルマンリクガメ256頭、ギリシャリクガメ7頭、ホルスフィールドリクガメ4頭、マルギナータリクガメ3頭ほか)のうち、リクガメ科270頭を感染の危険がある群として分析 |
| 接触した個体 | 感染した個体と接触した22頭のうち、20頭がウイルス陽性(PCR検査) |
| 症状が出て確認された個体 | 15頭(症状があり、PCR検査で陽性だった個体) |
| 症状(15頭) | 口からの濃い粘液12頭(80%)、鼻水5頭(33.3%)、口の中のプラーク2頭(13.3%)、神経症状1頭(後ろ足の不全麻痺) |
| 経過 | 15頭中9頭(60%)が発症から10日以内に死亡。冬眠明け直後だった。のちの時期(晩春〜夏)に感染したとみられる個体では、症状が出てから死亡までがほぼ1か月と長かった |
| 死亡 | 死亡時にPCR検査で陽性だった個体は15頭(症状が出て確認された15頭と大部分は重なりますが、まったく同じ15頭ではありません)。感染した20頭のうちの75%で、リクガメ科270頭の施設全体では5.5%(15/270)。死亡時にPCR陽性でなかった個体も含めると、観察を続けた期間全体では、感染した個体のうち16頭が死亡した |
論文の序論には、TeHV3の臨床症状として、結膜炎、鼻や口からの分泌物、壊死を伴う口内炎、舌炎、咽頭炎が挙げられ、 神経症状として、元気消失、円を描くように歩く、麻痺、協調運動の異常が報告されている、と書かれています[1]。
別の集計(ヨーロッパの検査機関で2016〜2020年に検査した4,797件)では、ヘルペスウイルス陽性は312件(6.50%)で、 検出されたウイルスの型は、TeHV1が143件、TeHV3が153件などでした[2]。 この集計は、検査の理由や動物の背景が多くの場合提供されていないもので、検査は病気の個体や接触した個体に偏っていた可能性が高く、 陽性率は実際の有病率を反映していない可能性が高い(実際より高めに出ている可能性がある)と論文は述べています[2]。
考えられる原因
報告されている要因には、次のようなものがあります。
- ヘルペスウイルス(TeHV3)の感染:上の集団発生で確認されたウイルスです。 論文は、冬眠明けが、この病気の疫学上、重要な時期であるように見えるが、その理由は完全には分かっていないと述べています[1]。 論文が挙げている可能性は、冬眠明けの時期にリンパ組織のリンパ球が減っていること、 早春に血中コルチコステロンが最高になること、環境温度が、夏よりウイルスの増えやすい温度に近いことなどです。 一方、発症に環境温度が関わるかを調べた解析では、対象が12頭と少なく、統計的な根拠は得られませんでした[1]
- 症状のない感染個体からのウイルス排出:症状のない感染個体を2年間追跡した報告では、 ウイルスが検出される時期は個体によりまちまちで、冬眠明けの時期に陽性だった割合が66.6%、 それ以外の時期は25〜50%でした。対象は少数の個体です[1]。 また、最初の流行を生き延びた個体のうち2頭が、翌年の冬眠明けの時期に死亡しています[1]
- 冬眠と免疫の変化についての仮説:ヨーロッパの検査機関の集計の論文は、冬眠は免疫系のさまざまな変化と関連し、 ヘルペスウイルスの再燃を増やすという仮説が出されていると述べています[2]。 仮説であり、この集計自体が確かめたものではありません
- 冬眠中の死亡の理由(ヨーロッパヌマガメの論文):感染、やせて体力の蓄えが足りない個体、 診断されていなかった病気や原因不明の病気、捕食、凍結、脱水などが挙げられています[3]。 対象はリクガメではなく、この論文が他の文献を引いて述べている記述で、この論文自身が死亡数や内訳を示したものではありません
- 冬眠中の体重減少:ヨーロッパヌマガメの冬眠の前後の測定45件では(冬眠中に死亡した個体は除かれています)、体重減少は 平均5.32%(最小0.22%、最大18.87%)で、オス・メス・幼体のあいだに統計的な差はありませんでした。 論文は、冬眠中の体重減少が大きい場合、背景に健康上の問題や不適切な冬眠条件がある可能性があると述べています [3]。この数値はヨーロッパヌマガメのもので、リクガメに当てはめることはできません
いずれも、1つの報告だけで原因を断定できるものではありません。 上の集団発生は、個体の大半がヘルマンリクガメの施設でした。論文は、ヘルマンリクガメの死亡の危険が ほかの種より高かったと報告しています(感染したギリシャリクガメ2頭は生き残りました)。 比較の相手になったのは、感染したヘルマンリクガメ以外の3頭だけです。ただし、種・年齢・性別は飼育場所と絡んでおり、宿主の感受性はまだ明らかでないと述べています[1]。
家庭でできること
診断や治療は家庭でできることではなく、必ず獣医師の判断が要ります。 冬眠させるかどうか、どのように管理するかは、この記事では扱っていません。
そのうえで、報告された調査に出てくることとして、次のものがあります。
- 冬眠の前後に体重を測って記録しておく (ヨーロッパヌマガメの調査では、冬眠の前後の体重を比べて、体重減少の大きさを評価しています[3]。 ヌマガメの数値を、リクガメの目安として使うことはできません)
- 口や鼻の分泌物、目の腫れなど、普段と違う様子を日頃から確認する (報告された集団発生で、確認された症状が口や鼻の分泌物でした[1])
- 報告された施設では、集団発生のあと、感染が疑われる個体を分けて飼育するなどの対策が取られました[1]。 ただし、これは1つの施設の対応の記録で、対策の効果を比べた調査ではありません
これらはあくまで報告に出てくる内容であり、すでに病気にかかっている個体を治すものではありません。
受診の目安
今日中に受診を検討してください
- 口から濃い粘液が出ている
- 口の中に、普段と違う膜状のもの・腫れ・びらんが見える
- 後ろ足に力が入らない、ふらつく、円を描くように歩く
- 冬眠明け直後から鼻水が出ている
- 冬眠明けから食べず、ほとんど動かない
数日のうちに受診を検討してください
- 目が赤い、腫れている、目やにが出ている(結膜炎が報告されている症状です[1])
- 冬眠の前後で、体重の減りが普段より大きいと感じる
冬眠明けに食べない・動かない原因は、この記事では扱えていません(上の3つの報告は、その原因を調べたものではありません)。 原因が分からないまま様子を見続けないでください。
報告された集団発生では、症状が出て確認された個体の60%が、発症から10日以内に死亡しています[1]。 経過が速かった例が報告されていますので、口や鼻の分泌物など気になる症状に気づいたときは、 様子を見続けずに、獣医師に相談することが勧められます。