要点
カメが片側に傾いて泳ぐ、潜れずに水面に浮いてしまう、うまく沈めない。
文献では、こうした状態は「浮力の異常(buoyancy disorder)」と呼ばれています。報告されている背景は、肺の病気(肺炎や肺の損傷)、体腔内に空気がたまる状態、消化管の閉塞やガスのたまりなど、複数に分かれます[1][2][3][4][5]。
参照した報告は、ウミガメと、動物園などで飼育されていたカワガメが中心です。 ミドリガメ(アカミミガメ)などペットとして多いカメを調べた報告は、今回の調べでは見つけられませんでした。ほかの種にそのまま当てはまるとは限りません。
呼吸器の病気(鼻水・口を開けての呼吸など)については、別の記事「カメ・リクガメの鼻から粘液が出る・口を開けて呼吸する」にまとめています。この記事は、浮力の異常に絞っています。
どんな症状か
ウミガメ(ロガーヘッド)14 頭の肺疾患の報告。 肺の病気の疑いで調べられた 14 頭のうち、8 頭に浮力の異常がありました。内訳は、左右対称が 4 頭、左右非対称が 4 頭(左側が上がる 3 頭、右側 1 頭)で、潜れない状態を含みます[1]。この 14 頭は、肺の異常の疑いがあって調べられた個体です。レントゲンでは 14 頭すべてに肺の異常のパターンが見られましたが、浮力の異常があったのは 8 頭で、浮力の異常がなくても肺に異常が見つかった例があったことになります[1]。
著者らは、ウミガメの呼吸器の病気は、呼吸困難・粘膜の青紫色化・鼻水・咳といった症状よりも、主に浮力の異常として現れると述べています。また、浮力の異常は、浮く側(positive)と沈む側(negative)に分けられ、positive buoyancy を得られないカメは息をするために水面に出るのが難しいと述べています[1]。
カワガメ(Dermatemys mawii)10 例の報告。 動物園などで飼育されていた 10 例で、浮力の異常が主な症状だったのは 9 例、食欲の低下は 2 例でした[2]。
ウミガメの腸の狭窄の報告。 腸や総排泄腔の狭窄で腸が詰まったアオウミガメ 6 頭で、ほとんどの個体に共通した異常として、浮力の異常(positive buoyancy)、元気消失、食欲低下、吐き戻しなどが挙げられています。著者らは、これらの異常は特異的なものではないと述べています(抄録による)[4]。
考えられる原因
文献で報告されている原因や関連する要因には、次のようなものがあります。
- 肺の病気(肺炎、肺の損傷):ウミガメの肺疾患の報告では、浮力の異常が主な現れ方とされ、肺炎・体腔内の空気・神経の外傷・消化管の異常が浮力の異常の主な原因として挙げられています。細菌が検出されたのは 14 頭中 13 頭で、すべてグラム陰性菌でした[1]
- 体腔内の空気(pneumocoelom):肺の病気に続いて体腔内に空気がたまった、ウミガメ 4 頭(ケンプヒメウミガメ 1 頭、ロガーヘッド 3 頭)の報告で、4 頭すべてに浮力の異常(positive buoyancy)があり、肺の外傷が原因と疑われたとされています(抄録による)[3]
- 小腸のガス(tympany)、腸のねじれ(volvulus):カワガメ 10 例で、小腸のガスのたまりが疑われたか画像で確認されました。5 例が回復し、5 例が死亡または安楽死となり、死亡した 5 例のすべてで解剖時に小腸のねじれが確認されています。発症前に、餌の急な変更(果物の与えすぎ、桑の枝葉の過量)や消化されない異物の摂取が 6 例にあり、一時的な適切でない環境温度(低下など)が 4 例で疑われています(抄録による)[2]
- 腸の狭窄:アオウミガメ 6 頭で、腸や総排泄腔の狭窄による腸閉塞が報告されています。原因は不明で、水槽飼育では肥満・餌・運動不足・慢性の腸疾患・抗菌薬の不適切な使用が関わる可能性があると述べられています(抄録による)[4]
- 異物(プラスチック)の飲み込み:やせたアオウミガメの幼体 1 頭で、浮力の異常・元気消失・便秘があり、消化管の閉塞が確認されました。プラスチックなどの異物 74 個が排出されたあと、行動と健康状態が速やかに戻ったことから、著者らは因果関係を強く示唆すると述べています。1 例の報告です(抄録による)[5]
ただし、これらはウミガメと動物園などで飼育されたカワガメの報告で、 個々の飼育環境で何が原因かを、当サイトが特定することはできません。 診断は必ず獣医師の判断によります。
家庭でできること
診断や治療は家庭でできることではなく、必ず獣医師の判断が要ります。
カワガメの報告の著者らは、栄養と環境温度を含む適切な飼育条件が、小腸のガスとねじれの予防に重要と述べています(抄録による)[2]。
そのうえで、受診のときに伝えられるよう、次のことを控えておくと役立つ可能性があります。
- いつから、どちら側に傾くか(左右どちらが上がるか)、潜れるかどうか
- 食欲、うんちの様子(回数・量)、元気
- 直前に餌を変えたか、与えすぎがなかったか、誤って飲み込んだ可能性のあるものがないか
- 水温や飼育環境が、直前に変わったか
- 同居している個体の様子
自己判断で市販の薬を使わず、早めに相談してください。
受診の目安
今日中に受診を検討してください
数日のうちに受診を検討してください
- 少し傾いて泳ぐ、浮きやすいなど、軽い変化が続いている
- 食欲やうんちの様子がいつもと違う状態が数日以上続いている
- 直前に餌を急に変えた、異物を飲み込んだかもしれない
浮力の異常は特定の病気に限られた症状ではなく、肺・体腔・消化管のどこが原因でも現れうると報告されています[1][4]。自己判断で様子を見続けず、早めに相談することが勧められます。